今回は、2年ほど前に栃木道場へ入会された山本さんにお話(※)を伺いました。

山本さんは入会される前はどのような運動をされてきたのですか?

武道の経験は全くなくて、子どものころからずっと球技ですね。バスケ、サッカー、野球といったチームプレーのスポーツばかりで、もともと運動神経は良いほうでした。

ちなみに50mは何秒くらいでしたか?

だいたい5秒代後半ですね。中学高校とずっと短距離は一番速かったです。

わぁ、すごい‼プロスポーツ選手並みの早さですね。
合気道に興味を持たれたのは何かきっかけがあったのですか?

子どものときたまたまテレビで塩田剛三先生の特集を見て合気道というすごい武道があるのを知りました。武道には関心があったのですが、地元には柔道と剣道の道場しかなくて合気道はもちろん空手の道場もなかったので習いたくてもできなかったのです。柔道とか剣道は厳しすぎる感じがしてどっちも自分には向いていないと思いました。

確かにそういうイメージはありますね。それでは叡和会の道場へはどのようにして?

きっかけは二つありまして、はじめは職場の先輩から誘われました。ちょっと記憶にはないのですが、私は2回くらい断っているみたいで(笑)、でも当時は仕事が忙しすぎて余裕が全くなかったのでそれどころじゃない感じでした。でもその仕事というのが合気道を始めるきっかけになっているんですけど。

それはとても興味深いお話ですね。

ある国際的な会議の開催準備に携わることになって計画をつくるためにセキュリティ対策について調べる必要が出て来たんです。その中でテロ対策とか要人警護について警察関係者からお話を伺う機会がありました。警護を担当する方々は警察とか自衛隊で実践的な武道をやられているんですが、ボクシングとか空手の経験はあまり聞かなくて意外と合気道を習得している方が多かったのです。

要人警護の専門家の方々には合気道経験者が多いというのはなぜでしょうか?

話をよく聞いてみると、すごく合理的な理由が二つありました。
一つ目は、どんな体格の人にも技が効くというのが合気道だと。たとえばボブ・サップみたいな巨体の人が襲ってきたときに空手とか打撃技だけだと厳しいのではないかと。そして警護対象者、つまり守らなければならないVIPが女性の場合は女性のSPが付くわけです。力の劣る女性でも大柄な襲撃者を制圧する必要がありますので。

なるほど確かにそうですね。

はい。二つ目は、相手が暴漢や犯罪者であっても、ただ叩きのめせばよいということではなく法律の範囲内で制圧しなければならない、それはとても難しいことなのです。

警察官でも過剰な防衛手段をとってはならないということですか?

はい、その二つの条件を満たせるのが合気道だと聞いて、最初は「えっ、そうなの!?」と思いましたが、よくよく考えると確かにそのとおりだなと。

納得できますね。

そして全体計画を立てる中で、ミサイル攻撃とかヘリからの爆撃とかを受けたときにどう非難するかとか最悪の事態までを想定しながら専門家の助けを借りて勉強しました。そして実際に襲撃者が近くまで攻め込んできたときにSPの人たちはVIPを守るのが仕事なので、自分はどうなるんだろうか?護衛してくれる人はいないし、自分では何もできないなと気づいてしまったわけです。

そうなったらもう逃げるしかないですよね。

はい、でも逃げ切れずに襲われそうになったギリギリの瞬間にできることを自分は何も持っていないなと、それで武道をやってみたいと思たんですよね。でも一方で小中学校のときの記憶があって、武道は厳しいし、なんだかいじめられそうだし。筋トレはずっとやっていたんですけど。

そんなに運動神経が良くてずっとスポーツで活躍もされてきてパワーもあるのに?

はい、ビビッっちゃいました。それから社会人なので仕事も厳しくてたいへんなのに、プライベートの時間まで怒られたりするのはイヤだなと。そしていろんな方の話を聞くと自分は合理的な体の使い方を知りたいわけで根性論ではないなと思っていたのです。

それでその職場の合気道をやっている先輩に自分からお願いしたのですか?

いえ、それでも自分からはいけなかったのですが、その後にまたその先輩が今度は護身技の体験会があるよと誘ってくれたんで、ちょっと体験してみようと。

ほんとうに良い先輩ですね!

はい、私の恩人です。それでもまだほんとうに町の道場で習うような合気道が護身術として役に立つのかとちょっと疑っていました。

さすが慎重ですね。

その護身技の教室で出会った初めての合気道の先生が現在栃木道場で指導されている三浦師範でした。今思うと運命的な出会いですが、私は筋トレもやっていて体にはかなり自信があったんです。

ちょっとやそっとの技では自分には効かないぞ!と(笑)

はい、そう思っていました。すると三浦先生もそれをお察しになったみたいで、「思い切り力を入れて来てください」と言われたのですが、紹介してくれた先輩もそれを見てるので、ちょっと遠慮がちに行ったのですが、ビクともしないのでこれは全力でいってみようと。

そうしたら。。。

はい、それで攻撃を仕掛けていくのですが、なんか不思議な感覚で、力が吸収されたりそらされる感じで、気が付いたら倒され、組み伏せられ、抑えられたんです。三浦先生が「思い切り暴れてみてください」と言うので、暴れて逃れようとしたんですけど全くダメでした。

力だけでは通用しないと実感されたのですね。

私がこれからどれだけパワーアップしたとしても三浦先生には全く通用しないなと感じました。まるで合気道の開祖の植芝盛平先生に、入門前の塩田先生が全力でかかっていって手も足も出なかったという逸話みたいな体験でした。

素晴らしい出会いでしたね。

それから凄く印象的だったのは、三浦先生の解説がとっても合理的というか、職業柄なんでもロジカルに考える訓練を常に受けていまして、三浦先生の説明が感覚的ではなくとてもロジカルだったのです。技が上手く出来ないときでもその理由とメカニズムを本当にわかりやすく教えてくださるので、この先生の教え方であればどんな人でも上達するなと感じました。

確かに三浦師範の技の解説は本当に分かりやすいですよね。

これは本当に凄いなと思って入会させてもらいました。それからその時に面白い笑い話があるのですが、

ぜひ聞かせてくだい!

そのときにはじめて膝行法(床に膝をついて移動する合気道の技法)を体験したのです。一緒に体験しにきた小学生の女の子は上手で凄いスピードで進んでいくので、簡単そうだなと思ってやってみたら、

膝が痛かったとか?

いいえ、なんと1ミリも動けなかったのです。

筋トレでスクワット200キロを挙げる山本さんがですか?

はい、本当にピクリとも動けなかったのです。

えええっ!それはどうしてですか?もちろん今はお出来になると思いますが、改めてご自分で分析されるといかがですか?

おそらくもの凄く力んじゃって動けなかったのではないかと思います。

えっ、でも運動神経のカタマリみたいな、色々なスポーツで活躍されてきた山本さんがですか?

はい、きっと今までの運動と膝行法とではまったく身体の使い方が違うのだと思います。正座とかは球技ではやらないので。

確かにそうですね。(笑)

全く理屈が分からなかったです。そのとき私はけっこう絶望したんです。

となりで小学生の女の子がピピピピーって進んいるのに自分はという感じで?自分でもびっくりですね。

はい、今まで色んなスポーツやってなんでも得意だったのに、本当に1ミリも動けないなんて体験は生まれた初めてだったので本当に絶望したんです。

それでそのときはどうなったのですか?

なぜ動けないのか?ということを三浦先生が一つずつ解きほぐしてくれるんです。きっと今まで入会した人で膝行法で1ミリも動けなかった人はいないと思って、三浦先生もそのとき絶望されたのではないかと思ってしまったのですが。

合気道は凄い!という感動と自分はそれがまったくできないという失望のギャップですか?

はい、それでも三浦先生が「かならず出来るようになりますよ」と言ってくれたので、それを信じて入会しました。そのときは自分が長年培ってきた運動能力とか筋力が全く通用しない世界だぞと思いましたが。

それでも挑戦してみようと覚悟を決めたのですね。

はい。そして入門して1か月くらい後に、池袋スポーツセンターで講習会があると知って三浦先生に自分も出ても大丈夫かどうか恐る恐る聞いたら、「大丈夫ですよ、出てみると良いですよ」と言われたので、ちょっとドキドキでしたが、この凄い三浦師範の先生の乗木先生って、いったいどれだけ凄いのだろうかとワクワクしながら参加させてもらうことにしました。

いよいよ乗木先生との出会い編の始まりですね。

会場へ入るとその日は黒帯の人ばかりで他流派の人もいっぱいいて、自分だけが白帯で、その帯の巻き方もまだ覚えられなくて、先輩方が準備運動とかをしているのを眺めながら、自分は三浦先生に帯を巻いてもらっているという。場違い感がすごかったです。

すみません、ちょっと想像しただけで面白すぎて笑ってしまって。

そして講習が始まり、すごく驚いたことがあって、一番最初に基本動作を教わったのですが、黒帯の参加者の皆さんを乗木先生がひとりずつその動作を直しまくるのです。

合気道を何年もやってるはずの黒帯のみなさんをですか!

はい。その時に思ったのが、この合気道というのは6つの基本動作は凄く重要なんだなと。ずっとやっていて乗木先生に直されるということは、このなかに合気道のエッセンスがつまっているのだなと。基本技の前に稽古する基本動作が大切なんだなと。

理解されたのですね。

その後に基本技の講習が始まったのですが、白帯の私が目立っていたみたいで、幸運なことに乗木先生に技をかけていただくチャンスががたくさん訪れまして、ともかく衝撃の連続で。

さらなる衝撃体験の始まりですね。

正面打ち一ヶ条抑えは、体がぐーんと持っていかれて全然かなわなくて、衝撃でした。それから二ヶ条も本当に凄くて、技を掛けられるともう体の中を電気が走るような感覚で、でもまったく痛くはなくて、手首で技を掛けられているのになぜか膝が落ちるっていう、もう漫画の世界みたいでなんだこれは!?という本当に衝撃でした。

さらなる衝撃でしたか?

はい、乗木先生は筋肉ムキムキではないですし、これはもう絶対に筋力ではないなと。そして技をいろいろ掛けてもらったのですけど、三浦先生のときも本当にびっくりしたんですけど、乗木先生はもうまったく未知の解読不能なこんな人間が実際にいるんだという驚きの体験でした。全然汗もかいていないし、そんな衝撃的な講習会を終えてほんとうにポカーンとした感じでしたが、「もうこれは本気でやるしかない」と思いました。

講習会に参加されて本当に良かったですねー。

その後にまた新たな衝撃が続いたのです。丸山師範ですよ。

はい。

丸山先生は三浦先生とはまた全然違って、技を掛けられたときの圧がとんでもなくて、これはもう闘牛みたいだなと。

それは先生の迫力がですよね(笑)

はい、あとで丸山先生がステージ4の癌から復活したって聞いて、絶対冗談だと思いました。でもこんな闘牛みたいな動きをする先生なら癌も逃げていくなとちょっと納得しちゃいました。でも丸山先生をよく見てみると全然力じゃないんですよ。

体格はご立派だけども実はそうなのですね

凄く繊細な技術の積み重ねが統合されていて、それがあの動きになっている。はじめは力強い動きと思ったんですけど、それは私がものすごく力んでいたのでそれが跳ね返されていただけで、丸山先生はまったく力は使っていないなと、力んではいないなと、技の切れ味がとんでもない迫力となっているんだなと後で気づきました。

それに気づかれた山本さんも素晴らしいです。

ありがとうございます(笑)。
そのとき丸山先生から「いいから殴りかかってごらんよ」って言われて、はじめは軽く打ったんですけどあっさり腕を決められたので、つぎは本気でストーレートパンチを打ったら思い切り倒されていまいました。

丸山先生もほんとうに凄いですね!

ええ、三浦先生、乗木先生、丸山先生と次から次へと凄い先生が出てくるので、この会はほんとうにヤバいなと思いました。

叡和会はヤバいなと(笑)

そこまで体験していてアレなんですけど、まだ1ミリくらい合気道を疑っていたんです。

結構疑い深いというか慎重な性格なのですね。どんなところをまだ疑っていたのですか?

それは全員男性だったところです。突き詰めていったら実は合気道の威力の源は男性ならではの腰の筋力とか、絶対的に必要な筋量があってそこに身体操作という技術が加わって凄い効果を発揮しているのではないかと。

なるほど

例えば、小学生の女の子とかが技を効かせられるのか?と、それが自分の中で実証できれば、80歳、90歳まで一生かけてやっていけるかなと思ったんです。

そういうところですね。

そんな気持ちを秘めたまま1年後の講習会に参加したのですが、そこにTさんという永年合気道をやってこられた女性と衝撃的な出会いをしまして

ああー、Tさんですか!

はい、私が相手がいなくて一人でポツンとしてたときに、すごく小柄な女性がニコニコしながら「いっしょにやりませんか?」と声をかけてくれて、技をうけたんですけど、そのときまた異次元の体験をしまして、気が付いたら床に抑え込まれていました、

こんな小柄な女性なのに、この威力はなんなんだろうか?と

はい、相手がとても小柄な女性ということではじめは遠慮がちにかかっていったんですけど。2回目は「すみません、思い切り本気いっていいですか?」と断ってから行きました。

なんかいつものパターンですね

するりと攻撃をかわされてもの凄い螺旋のような力でTさんの体の中心に吸い込まれるような感じで投げられてものの見事に制圧されてしまいました。

合気道でいうところの中心力ですかね。

はい、おそらく。どうみても力があるとは思えない軽くて小さな女性で殺気とかが全くない穏やかな感じなのに、その技が衝撃で、これでもう自分の中の合気道への疑いの気持ちが全部消えました!(笑)

こんなか弱い女性でも合気道の技には凄い威力があると

はい。もうこれは本気でやろうと。やる気がでて熱が入ってきました。

合気道の魅力を思い知った感じですね。

はい、Tさんにとどめを刺されてしまいましたね。最後のピースがカチッとハマったんですね。合気道であればフィジカルを技術で圧倒できるなと。

入会してから1年間、まだちょっと疑いながら稽古していたら一見か弱そうな女性に圧倒されて、今までごめんなさいという感じですか?

ほんとに疑っていてごめんなさいです。合気道は本当に面白いなと思って塩田剛三先生の本を読み返すとまた以前とはまったく違った風景がみえてきて、より一層稽古に熱が入ってきました。

なるほど、それで今では毎週末に栃木市から東京まで稽古に参加するようになったのですね。

はい、叡和会は凄い先生や先輩がたくさんいて、先生方の教え方も統一されているので自分でも上達できると感じています。

私も、こんなに良い環境に恵まれている合気道の会はなかなかないと思います。
本日は貴重でとても面白い体験談をお聞かせいただき本当にありがとうございました。
※本記事はプライバシー保護の観点からお名前を仮名にしていますがすべて実話をもとに編集されています。
*見学、体験は無料です。お問い合わせフォームより事前にご連絡ください。入会のご案内はこちら
*演武会の見学も大歓迎です!

